極私的全国民必聴歌2 「ルーム・ライト」を国語教師が読む

 所ジョージが一番好きな吉田拓郎の歌は、「ルーム・ライト」である、らしい。私も大好きなこの曲、しかし、歌詞を読むといろいろ丁寧に解釈せねばならない箇所が多く目立つ(たぶん、だから所ジョージさんがこの歌を好きなのだろう)。
 
 まず冒頭である。「あなたが運転手に道を教えはじめたから/わたしの家に近づいてしまった」。そんなわけはないのである。「家に近づいた」から「運転手に道を教えはじめた」のである。ではなぜ彼女は(語り手が女性だと決めつけるが)、論理的に逆のことを語ったのか。
 
 そういえば、3番の冒頭「あなたがわたしの手を軽く握ってくれる頃/私の家が近くなった」も、普通は逆に述べるところだ。この逆転はともに、「あなたの行動」→「家に近づく」という順序に、彼女の思考が動いていることをしめしていると考えることにしよう。そう見れば、この歌全編を通して、語り手の彼女は、なにひとつ自分から行動を起こしていないことに思いが至る。「あなた」の行動に身を任せているだけ、本当は離れたくないのに、それに抗うこともない。一種のあきらめの雰囲気の中の恋を経験している。一種歌謡曲的な「恋の諦め」というテーマを、大仰にでもドラマチックに出もなく、めいっぱいせつなく作り上げた岡本・吉田コンビに、ただただ日本国民は脱帽すべきなのである。
 
 他にも2番の「忙しさ」や「スピードゆるめ」もささりたい。見えたのは「横顔」だけなのもささりたい。が、夜も遅いのでまた今度。
 
 おまけ。3番のルームライトはタクシーが開いたときのライトだと思うが、1番のルームライトは? おそらく、タクシー運転手が信号待ちかなんかで日報を書くためのライトではないか。だとすると、長くても1分以内のライト点灯の時間である。「あなた」を見るのにはあまりに短い。やっぱりせつない。あまり指摘されたことがないかもしれないので、書き添えておく。