どろどろしていなくても「どろんこ」?

・ということで、高校生クイズの感想である。率直に言うと、それなりに面白く見られた。
 
・番組全体の構成については「大前分析」がやはり優れており、私もほぼ同意見なのでそちらに譲る。2人1組に変更したことの可否については、・・・もう少し考える。好き嫌いで言えば、やっぱ3人の方がいいかな・・・。
 
・わたしはクイズ問題について考えておきたい。今回の問題は、時事問題や一般の人にも引っかかりがありそうなネタを重視し、一昨年までの「クイズ研究会がクイズのために覚えるだけの浮世離れした知識」から脱却していた。この辺の問題作成コンセプトは、うまくいっていたと言えよう。一言で言えば、問題選定が上手だった、ということ。
 
・世間の人に「すごい」と思わせる早押しをさせ、かつ世間の人が答えとなる単語を知っている。そんな条件を満たす問題は、「史上最強」の早押しレベルの問題であった、ということになろうか。昔のベタ問題で超早押しを演出する、というコンセプト自体は、オープン大会に出題された難問を出題していた一昨年までのコンセプトと、思想的に大きく重なるものである。
 
・いいところに目をつけたな、と最初思った。が、正直言うとがっかりする気持ちの方が強かった。『QUIZ JAPAN vol.1』にある「ウルトラクイズ座談会」では、今回の問題作成に携わった方々が高校生クイズについて述べている(p.74~75)。例えば初期の決勝問題について述べた部分。「確かに問題としては、いろんなクイズ番組を見てる中で一番見応えがある。本当に予定調和な感じがない。クイズの専門家みたいな人は、基本問を何割で、ひっかけがこのぐらいで、そこに難問を混ぜる、みたいな調整をしがちなんだけど、そういうのが何もなくて、本当に『高校生クイズ』独自の問題であって、他の番組ではありえない問題群なんですよ」。
 
・そこまで言うなら、なぜそこを目指さないのか。クイズ作家なら、そういうところに心血を注ぐべきではないのか。確かに、問題選定の権限はプロデューサーにあるのだろうし、演出に合致するベタ問の方が採用されやすいという事情もあるのだろう。発注のされ方がどうだったか分からない以上、私もあまり無責任なことは言えないのだが。
 
・しかし、今回のように高校生クイズの基本フォーマットに戻ったような全体構成の中で、今こそ予定調和ではない問題を練り込んで欲しかった。そうしないと、結局「海外でやるクイズ王決定戦でしかない」という、末期のウルトラクイズへの批判が繰り返されてしまう。今回の放送を見て、高校生がベタ問題を覚えまくる図式が、目に浮かぶ。そこに「知恵」や「高校生らしさ」はない。
 
・初期(福留時代)の高校生クイズ決勝問題のすばらしさは、いくらでも語れるので別項に譲るが、それをクイズクイズした問題群に変えてしまった責任は、我々クイズ研究会にある。だったら、クイズを研究したはずの我々が(私にその力はないが)、もう一度高校生クイズ独自の問題群とやらを、作り出していくべきなのではないか。今回の決勝戦では、「作問した」クイズ問題は皆無に等しい。過去のベタ問をチョイスして提示するためだけに存在するクイズ関係者は、問題作成者ではなく単なるリサーチャーである。
 
・おまけ。「日本語では分子間力という」→「ファンデルワールス力」。「力(りょく)」も日本語でしょ。ここは「ファンデルワールスフォース」と言って欲しかった。ま、それは冗談。分子間力の英訳は「intermolecular force」である。ファンデルワールス力ではない。つーか、厳密に言えば「水分子同士の水素結合」とかも分子間力によるもんなので、「分子間力」=「ファンデルワールス力」ではない。早押しを演出したいのは分かるが、だれか理系のウラトリのできる人はいなかったのかな。
 
・決勝はあれだけ熱戦だったのだから、もっとテンポ良くいきましょう。なお、私にとっての決勝名勝負は第7回。次点は第8回。この2つはホントに今見ても面白い。
 
・もうひとつおまけ。「神奈川県のクイズ大会」って何? 
 
・一応繰り返しますが、番組自体は面白く拝見しましたよ。高校教員として、高校生の必死な姿を描いてくれることは、単純にうれしいわけで。