綱引きクイズについて2

最近第7回と第8回の綱引きクイズを見る機会があった。舞台はともにハワイの砂浜。

綱引きクイズは両方の回とも24人で行われた。まず、いろいろあって2チームに分かれる。
問題が読まれると綱引きが行われ、引き勝ったチームの先頭の人に解答権が与えられる。正解すれば勝ち抜け。間違えると綱引きの列の最後尾に行く。12人が勝ち抜けるまで行われる。

このクイズで見せたかったのは当然「必死に綱を引く姿」なのだが、その根底にスタッフが想定していたのは「チームのために頑張る姿」だと思われる。福留功男著『私情最大アメリカ横断ウルトラクイズ』では、「他人のためにチーム一丸となって頑張る姿」を描きたかったことを匂わせる記述もある。しかし、それは期待しすぎというものであろう。「今先頭にいる人をチーム一丸となって勝たせたい」という気持ちなど、そうそう起こるものだろうか? 第7回でラスト抜けが決まった直後、いかにも「チームの勝利」と結論づけているが、そんな単純なものだろうか?

基本は「引き勝つと自分が得になる」から一生懸命引くのではないか。以下、このクイズについては「一生懸命引く姿がどれだけ視聴者に見せられるか」を、出来不出来の基準としていく。

実は第7回と第8回で大きいルールの相違がある。このことは私の知る限りあまり今まで触れられてこなかった。ただ、放送を見る限り、ほぼ確実にそうなんじゃないかな、と思うので書く。誰かから裏が取れれば良いのだが。

第7回は綱を引く人が、各チーム列の前から6人ずつと決められているようである。だから、どっちかのチームで1人勝ち抜けてもそれぞれのチームの「綱を引く人」の人数は変わらない。クイズはあまり簡単ではない問題。

放送上かなり編集が多いようだが、順番が何周か(たぶん2周)した末に12人目の勝ち抜けが出たようである。第7回ルールの場合、正解できる問題にたまたま当たるラッキーチャンスに当たるかどうかが勝負の分かれ目。後ろで引いている人たちも、「6対6の綱引きで引き勝てば、必ず自分の解答権に近づく」と思えるから、引くモチベーションはグングン上がっていく。つまりこのルールでは「引き勝つ=(先頭の人がどういう結果でも)自分の順番が上がる」。またいわゆる「裏切り」も6対6の綱引きでは大きな意味を持ってくる(裏切ると7対5の綱引きになるから)。問題の難易度も低くないから、チャンスが巡る回数も比較的多い。

このルールだと、どんな場合でも「一生懸命引く姿」を描けそうだ。

一方第8回では、各チーム全員が綱を引いているようである(誤答したとき、ご丁寧に「誤答した人は勝ち抜き絶望の最後尾に」と字幕が出る)。どっちかのチームから勝ち抜けが出ると、そのチームの人数が1人減る。クイズは易しい問題。

クイズが易しいために、後ろの人にはなかなか順番が回ってこない。事実、後ろの方にいた挑戦者は解答権を全く得ることなく敗者となった。この辺の所を、私はかつてこう書いた。

---以下自分の文章の引用---

しかし、ウルトラクイズの趣旨からして、どうしても納得のいかない点がある。綱を引く後ろの人たちのモチベーションが、なかなかあがりづらいということである。クイズ開始時12対12だった綱引きが、一人抜けると12対11になる。そうなれば12人の側が圧倒的に有利になることは間違いない。つまり、後ろで引っ張っている人にとって「自分のチームにとって勝ち抜けが出る」ということは、順序が1番前に行くということ以上に、「相手チームが次に引き勝つ可能性が圧倒的に上がる」ということを意味するのである。だから、後ろにいる人にとっては何とか引き勝って、先頭の人に間違ってもらいたいところなのだが、先頭の人は分からなければ力を入れなければ良い。そうすれば相手の勝つ可能性が圧倒的に強くなり、自分の位置は安泰になるから。

 つまりはやる気がまったく出ない。だってどう頑張ったって自分は抜けられないんだもの。

---引用終わり---

この分析はいささか雑である。解答権を得る唯一の方法は「引き勝つ」ことなのだから、結局一生懸命綱を引かざるを得ない。ここには「問題の難易度」という観点を絡めて分析せねばならないところだ。結局、問題が易しかったところに、12対12の綱引きにルール改正したことも絡み、後ろの方まで解答権の廻らない事態が生じてきてしまった(問題が易しいと、前の人が誤答で後ろに回ることがないから)。で、クイズの途中に後ろの方の人がそのことに気づくことは、充分あり得る。ここに「一生懸命綱を引く姿」を描く上での、障害が生じてくる。

まとめると、「問題の難易度を下げたこと」「12対12の引き合いにしたこと」は、「一生懸命綱を引く姿」を演出する上で、不適切なルール変更だったと云えるのではないか。

さて、完成度の高い第7回のルールをひるがえし、何故第8回のようなルール改正を行ったのだろうか。実はこの辺が、よく分からないところなのである。

完全に推測でしかないが、スタッフには「砂浜での綱引きが長期化すること」を恐れる心情が働いたのではないかと思われる。もしかしたらこのクイズは、短時間で終わらせなければならない事情があったのかもしれない。いずれにしろ、長期化させないための力が働いていることは確かだろう。